アインズ&トルペとFrancfrancの合併

昨夏の話になりますが、2024年7月に生活雑貨ブランドとして知名度の高い「Francfranc」の全株式を、国内調剤薬局最大手アインズホールディングス(以下「アインHD」)が約500億円で取得すると発表しました。

アインHDはコスメ雑貨業態「アインズ&トルペ(AINZ & TULPE)」でも知られています。
アインHDの統合報告書資料によると、売上は9割がファーマシー(調剤薬局)事業、1割がリテール事業で構成。
リテール事業を「ファーマシー事業に特化せず、さらなる成長を目指すためのもうひとつの事業の柱」として位置付けており、今回はその確立に向けたM&Aと言えます。

一方のFrancfrancは1992年に1号店出店以来、20代〜30代の女性をメイン顧客層に据えてデザイン性の高いインテリア・雑貨を展開。
一時はあらゆるショッピングモールに誘致されるほど高い知名度と人気を誇り、国内に約140店舗を構えるに至りましたが、2010年前後から徐々にマーケットでの存在感が落ち着くようになります。

生活雑貨というMDのトレンドサイクル自体が比較的短いことに加え、コアとなる顧客の年齢層が狭いほど年代が進むに連れたブランドからの離脱が早いことなど、多くのブランドに訪れる局面がFrancfrancにも訪れたものと思われます。

その後、創業者退任や投資ファンド会社への事業承継を経て、2024年にアインHD傘下となり「アインズ&トルペ」との相乗効果を模索するフェーズに入りました。

同年11月のアインHDリリースでは、北海道の「アインズ&トルペ」新千歳空港店での「Francfranc」商品の展開、そして横浜のコレットマーレ桜木町店では「アインズ&トルペ」と「Francfranc」の隣接オープンを発表。

その内容には、「自分らしく、美しく生きる暮らしの提案をするコスメ&ドラッグストア “アインズ&トルペ” と、多彩なデザインと自由なスタイリングで心地よい毎日を提案するインテリアショップ “Francfranc” の融合によって、お客さまにさらなるワクワクをお届けすることで、コスメとインテリア・雑貨を通じたトータルライフスタイル提案型の新たな価値の提供を目指します。」とあります。

https://www.ainj.co.jp/corporate/news/notice/003587.html

アインズ&トルペとFrancfrancの共通点は、主要顧客が女性であることです。
出店エリアと顧客層に共通性がある一方、商品カテゴリーは「化粧品」「生活雑貨」と異なる部門を得意とする補完関係にあります。

少し前のデータになりますが、化粧品と生活用品(家具・家事用品)における独身女性の1ヶ月あたり平均購買額と割合は
・化粧品 4,935円(年収の2.1%)*1
・生活用品(家具・家事用品) 4,483円(支出全体の2.5%) *2

* 出典1:薬事法ドットコム「化粧品の1カ月の平均購入金額と購入場所」(2021.5.27)
* 出典2:出典:三菱UFJ銀行HPより https://www.bk.mufg.jp/column/others/b0050.html
    (総務省統計局 2022年単身世帯家計調査より)

とあり、大雑把な計算ですが、アインズ&トルペはFrancfrancをグループに入れたことで、リテール事業による対象マーケットが2倍になったと言えます。
同業他社のM&Aによるマーケットシェア拡大ではなく、顧客にアプローチする生活領域の拡大によって事業成長を図る点が、アインHDの戦略と考えられます。

※アインHDの2024年統合報告書によると、Francfrancのグループ入りによるシナジーは2026年 4月期から現れ、それ以降、当社グループの収益力への貢献が期待されています。

そもそもライフスタイルブランドとは

このM&Aについて、アインHDのリリースには「トータルライフスタイル提案型の新たな価値の提供」とあります。
これは必ずしも2業態の合体を意図した記述ではないと推察しますが、将来的に一つのブランドとして発展する可能性も否定できません。
またそうでないとしても、マーケティングコストを一元化するなどの経済性は追求するものと考えられます。

このような観点に立って、「ライフスタイル提案型の業態=ライフスタイルブランド」についての一考察を書きたいと思います。

昨今ではファッションや物販業態だけでなく、ホテルでも「ライフスタイル」を標榜する施設が登場していますが、そもそもライフスタイルブランドとはどのようなブランドを言うのでしょうか。

マーケティングの教科書で紹介されるライフスタイルブランドの一例として、
無印良品(ミニマルで普遍的なライフスタイル)
Lululemon(ヨガ愛好家を中心にマインドフルネスとウェルネスという価値観を提供)
Harley Davidson(アメリカの精神である”自由”の象徴、現代のカウボーイ)
Patagonia(地球環境を守るためにアウトドアビジネスを手掛ける)
などが挙げられます。

これらのブランドは皆、商品を見せる・実際にサービスを体験させるなどのアクションを起こすことなく、顧客から好意的な反応を引き出す力を持っています

その源泉には、顧客へ伝えたい独自の思想やメッセージがあります。
独自の思想とメッセージは優れたブランドの必須条件とも言え、メッセージを軸とした企業活動と商品が顧客との信頼関係を強め、一時の流行に左右されない長期の顧客関係を築く一要素となります。

整理すると、ライフスタイルブランドとは「商品やサービスの機能的価値に加えて、その裏に併せ持つ思想も本質的価値として提供し、顧客のライフスタイルに貢献するブランド」を言います。

思想を表現する手段としてメッセージを用意し、それが顧客の暮らしを豊かにするための約束となり、購買や支持へと繋がる動機づけへと展開されていきます。では、アインズ&トルペとFrancfrancが新たにライフスタイルブランドとしてマーケットポジションを強化するには、何が課題と考えられるでしょうか。


無印良品から知ることのできる教訓

ここでライフスタイルブランドの一例にも挙がった「無印良品」を例に考えてみます。

無印良品は大量生産・大量消費・大量廃棄への批評的姿勢を背景に、「長く使え、コマーシャリズムに迎合せず、生活の基本となる本当に必要なものを必要な形で提供する」ことをコンセプトに据え、「わけあって、安い」のメッセージとともに1980年に立ち上がりました。

自然に近しく、思慮に溢れたシンプルな生活像を追求し、時代の流れに応じてアプローチを更新しながら商品を拡張し続けた結果、今では出店規模がヨーロッパ・アジア各国にまで及んでいます。

2021年からは「生活の基本を支える商品群」を強化する方針を打ち出し、ドラッグストアで購入できるような日用品を拡充。
中でも「自然とともに」と言う考え方から開発された「発酵」「米ぬか」ベースの化粧品が大ヒットし、停滞感を指摘されていたブランドの復活に貢献しています。

今やグローバルブランドである無印良品ですが、約50年の間で商品開発や流通体制の変更など改良を重ねて今の姿があり、企業としての浮き沈みを経験しながらも生活者の心を捉えたヒット商品を輩出し、人々の暮らしに浸透し続けてきました。

おそらく立上げの頃は化粧品開発など想像してなかったかもしれませんが、これまでの軌跡を見れば分かるとおり、商品領域だけではなく事業領域も拡大し、それが違和感なく「無印良品」らしいと認知されることに、このブランドの強みがあります。

顧客から「無印なら(こういう展開も)あり得る」という納得感を持って受け入れられること、それを裏支えする創業時からの思想に加えて、新たな領域でも無印良品を感じることのできる商品開発力が、ライフスタイルブランドとしての基盤を強固にしているのです。

アインズ&トルペ + Francfranc がライフスタイルブランドになるには

セレクトショップ事業が主であるアインズ&トロペとSPA(製造小売業)モデルのFrncfrancは互いのケイパビリティが異なることから、補完性があり相乗効果をもたらしやすいと思えますが、ライフスタイルブランドを標榜する場合は次のステージへのチャレンジが必要になると考えられます。

ここで必要なのは、アインHDだからこそ創れるライフスタイルブランドとしての思想を顧客に改めて投げかけ、彼らから共鳴を引き出すことに他なりません。

一般的に、企業統合直後はPMI作業に力が入りがちですが、落ち着いた後にはライフスタイルブランドとして顧客貢献できる独自の思想とメッセージ(コンセプトとコミュニケーションと言い換えても良いと思います)、それを表す主力商品をどのように企画・開発するか、が取り組むべき論点と言えます。

またアインHDの大きな強みは、国内最大手である調剤薬局としてのプレゼンスです。
調剤薬局は医療・健康の世界に近く、今後の国内において更に需要が高まる業界です。
リテール事業の強化を図る一方で、すでに大きなシェアを持つファーマシー事業(=ドラッグストア)でもブランド訴求にはメリットがあり、「コスメ・生活雑貨」と「医療・健康」を跨いだメッセージを作ることも不可能ではありません。

異なる顧客接点にも共通したブランドメッセージを打ち出すことができれば、マーケティングコストを浪費することなくブランド体験の早期浸透が期待できます。

これらの現存する長所を活用し、またブランド同士の異なるケイパビリティを組み合わせて、顧客関係を一段高いステージにどう持ち上げていくか。
そのためには、物販活動を新たに展開する一方で、顧客に深く根づく思想やメッセージの再創造が求められると筆者は考えています。

【POINT】

  • アインズ&トルペとFrancfrancは女性を主要顧客に据える共通点がある一方、商品カテゴリーと事業モデルは異なることから、相乗効果を生みやすい関係にある
  • ライフスタイルブランドを目指す場合、商品やサービスの機能的価値だけでなく本質的価値としてのブランドが持つ思想・メッセージを通じた顧客への貢献を目指す必要がある
  • 同時にブランドらしさを表す商品開発も必要であり、思想とのつながりを顧客から納得感を持って受け入れられる取り組みが求められる